林光明様著作物・継承コンテンツ
リアル!戦国時代 vol.32
第32回 中世のキーワード 「座」 シリーズ 建築工と座
建築工としての「大工」が、もともとは律令に定められた木工寮の最上位者の官名だったことは有名ですが、寺社の建立や貴族豪族の館を建てるなどの需要の変化から、これら朝廷に属さない建築職人集団が平安時代から出てきました。
中世も初めのうちは、彼ら大工も所属する寺社などから給田を与えられ、これが彼らの基本給となっていました。
つまりは技術系サラリーマンの一種と言えるでしょう。
寺社に属していた関係上、法会などにも参列し、その席次もあって座を結成するに至ったようです。
彼らは災害時などの建物修理も担当しており、「木工座」と呼ばれていました。
木工座はだいたい大工、権大工(引頭)、長(オトナ)、連、の4階層に分かれ、トップの大工は「大工職」として世襲が認められていました。
大寺社は、専属の木工座をそれぞれ持っていたわけです。
建築現場では大量の職人が一斉に仕事をしますので、事故を防ぎ円滑に進めるためには集団の統制を厳しくする必要があり、また本所(発注元)の寺社も、誰か1人代表者を決めておいた方が良いために棟梁としての大工職を固定していたのかもしれません。
つまり大工の棟梁は技術も大切ですけれど、それ以前に現場や座の統率の方が重視されていたわけで、例えば本所の寺社の意向を無視し続けていたりすると、世襲の大工職といっても免職の憂き目に会いました。
ただやはり建築という大切な仕事をするわけですから、あまりに不器用なものも免職されたということですから、今も昔も技術者は実力がものを言ったようです。
面白いことに寺社に所属する木工座は、単純なピラミッド状の単一組織ではなく、1つの座の中でいくつかの組に分かれており、それほどでもない工事では、これらが交代で仕事を請け負っていました。
また、1つの現場では各職の階層が重視されていましたけれど、普段はそうでもなく、仕事を請け負っていないときは、手の空いている者が他の工事を請け負いもしていました。
加えて、請け負った仕事が大きい場合、請負座の下に孫請けとして別の木工座が入ることもあり、その意味では現代の企業と、とてもよく似ています。
しかしそういう本所以外での現場では、たとえ同じ座から来ていても持っている技術の差によって、上位の大工と次位の権大工の地位が逆転することもあり、現代よりシビアな面もあったのです。
これが地方の場合、規模はかなり小さくなります。
初めのうちは、国衙に所属していた番匠たちが国内の需要を賄っていました。
ここも中央と同じように、番匠たちが免田を与えられ、いわゆるサラリー仕事をしていました。
また、稀に大荘園の中に荘内の作業を請け負う「大工処」が作られ、ここでも建築に携わっていたりもしました。
中には京都奈良からの渡り職人が来て、特に頼まれた仕事を請け負っていました。
京都と奈良の大工技術は飛び抜けて優秀だったため、彼ら渡り職人は遠近を問わずに仕事を頼まれたようです。
ただ、彼ら渡り職人は現場や座の統制を乱す元になるので、排斥されることも多かったということでした。
彼らの収入は、基本給としての本所からの給田収入と、工事ごとに支給された賃金でした。
しかし給田じたいは、大工自身が耕作することはあまりなかったろうと考えられています。
また、賃金は大工、権大工、長、連の順に、徐々に低くなっていました。
だいたい大工を100%とすると、権大工は90%、それ以外の一般的な座衆は80%の例が多いようです。
具体的に言うと、給田を持っている大工の場合は1日約50文、給田を持たない職人で1日約100文プラス酒手として1日につき5〜10文、他から頼んだ大工は1日150文と、ちょっと高めになっています。
重労働だった大鋸挽き職人は1日120文と、こちらも高く設定されていたようです。
また現場での食事は、賃金とは別に支給され、その意味では仕事さえあれば高収入の職業だったようです。
彼らの賃金は中央と地方を問わず、渡り職人でもない限りそれほどの格差もなかったようです。
しかし本所に命じられて簡単な仕事や修理などをしたときは、1ヶ月以内であれば無料奉仕、1ヶ月以上の場合に賃金を支払うと定めたものもあり、本所もなかなか厳しいなと思わせるものがあります。
仕事のないときは、その余暇を利用してチリトリなどの小物を作り、市場に出すという日銭稼ぎも認められていたようです。
その意味で木工座は同業者組合に近く、徒弟制度も従来言われていたような強い統制下におかれていたということはありませんでした。
当時としても特殊技能を持つ彼らには、かなり自由が認められていたようです。
やはり手に職を持っている人間は、いつの世でも強いということでしょうか。
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