冨樫政親が主人公の歴史小説『北辰の旗』

戸部新十郎『北辰の旗』北国新聞社,1993年
 冨樫政親を主人公とした小説。幼少の頃から、1488年に一向一揆に討たれるまでの政親の人生を綴る。”白山の鷹”と呼ばれた鶴童丸(政親)の成長と、混乱した加賀を収めんと奮闘する様子を描く。一向一揆に討たれた武将として名は有名だが、その実はよく知られていない政親を取り上げた貴重な1冊。小説と言う事で、主人公政親=優秀、敵対する泰高・一向一揆=悪というように描かれている。政親の史料が限られている関係上、全てノンフィクションというわけにはいかなかったが、小説としてはとても読み易く、歴史を知らない人でも読んで楽しめる本である。

義綱の読書感想文
 前述したが、一向一揆勢に討たれた武将として名は有名だが、その実はあまり知られていない冨樫政親を取り上げ、加賀冨樫家にスポットを浴びさせたのは、なんと言っても大きな功績である。また、この本は、野々市町が戸部氏に執筆を依頼したものであり、盆踊歌”じょんがら”(町無形文化財)等で冨樫氏を賛美する野々市町の郷土史に対する熱心さが伺えるものである。加賀へ歴史旅行に行く際はぜひ読んでおきたい小説である。
 内容としては、史実箇所よりフィクションの方が多い。例えば、政親の幼少の頃鶴童丸が、父成春の守護召し上げの影響で加賀を追われ、京都で密かに剣術の腕を磨いてかなりの成長を遂げる、これは完全にフィクションである。また、冨樫泰高と敵対している政親一行が、泰高の拠点の関を越え京都に向かう時、冨樫泰家が九郎判官義経を安宅の関で義経と知っていた通したと言う「勧進帳」の話を折り込み、同じような場面を泰高が演じたりする。これフィクションではあるが、読み物としては非常に面白い。また、人望もあり知勇兼有の優秀な政親が無念にも一向一揆に討たれてしまうのも、日本人的な敗者贔屓感情から泣けるものがある。
 ただ、疑問点もちらほら見受けられる。1464年に冨樫泰高から政親は家督を譲られたとされているが、この小説では依然敵対したまま、さらに応仁の乱では政親は西軍に属している。また、疑問点ではないが、幸千代を倒した1474年〜1488年までの政親の行動があまり描かれていなかったが、その辺りは政親と弟・幸千代との相克の争いで非常に描くと深みのある小説になったと思う。ひょっとしたら、その部分の政親の業績は読者のご想像にお任せというところなのか。
 室町時代、しかも15世紀という時代の歴史小説とは、あまり見ないものではないか。それだけに貴重な本である。残部僅少の為、一般書店では売っていないし、販売元でも売ってくれない。手に入れる為には古本屋を探すしかない。手元に置かなくても良いなら、図書館で借りるのが一番手っ取り早い方法である。


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